
SNSでの個人的な発信を行わず、スマートフォンも持たず、いまだにガラケーを使い続ける。プロデューサーでありながら、演出・撮影・編集まで自ら手を動かす。TYO MONSTERの木下健太郎は、際立って独自のスタイルを貫いてきた。それでいて、仕事は途切れることなく集まってくる。「全部自分でやったほうが、やりたいことの『正解』に早く辿りつける」と語るその姿勢は、「縁の下の力持ちに徹する」という信念と地続きにある。生成AIをいち早く制作に取り入れる実践者でもある木下に、仕事観とこれからのプロデューサー像を聞いた。
木下 健太郎(きのした・けんたろう)
株式会社TYO MONSTER/DINER。Chief Executive / Executive Producer / Director。プロデューサーを務めながら、自ら演出・撮影・編集も手がける。主な担当作に、一発撮りの音楽パフォーマンスを届けるYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』、タクシーメディア「TOKYO PRIME」のオリジナル番組『ひみつのPRIME』、伊藤園「お~いお茶」、ライフネット生命「正直劇場」シリーズなど。
主な受賞に、2020年 D&AD ゴールド/One Show ゴールド、2021年 広告電通賞フィルム部門金賞(SONY 360 Reality Audio)、2021年 ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS メディアクリエイティブ部門・ブランデッドコミュニケーション部門・フィルム部門Bカテゴリー・マーケティングエフェクティブネス部門の各グランプリ(THE FIRST TAKE)、2024年 ACC メディアクリエイティブ部門ゴールド(ひみつのPRIME)など。
インタビュー(前編)はこちら:
『演出も、撮影も、編集も。『THE FIRST TAKE』『ひみつのPRIME』を手がけるTYOプロデューサー・木下健太郎の知られざる仕事術』
──SNSでの発信を行わず、ガラケーを使い続けているのはなぜですか。
みんながFacebookを始めた頃から、まったくやる気になれなくて。みんながSNSで自分のやっていることを発信し始める。それを見ていると、まさに逆張りのような気持ちになってきて、「自分のやっていることをいちいち伝えないほうがかっこいい」と思ってしまったんです。今も実はスマホは持っておらず、ガラケーを使っています。

人と違うことのほうが自分はいい、みんながやっていることはやらない、というところが昔からありました。小学生の頃、クラスのほぼ全員がファミコンを持っていたんです。でもうちは親の教育方針で買わなかった。自分も欲しいけれど、どうせ無理だから、持っていない自分のほうが「どうだ」という逆張りでいくしかない。「そんなのいらない、むしろ持ちたくない」と。
だから、みんながスマホに変えていったときも、そもそも持ちたくない、と。今も必要性を感じないし変えるつもりもないですね。iPadは持っていて、メールなどの連絡はそちらでしています。
──名前が前に出ないことの「効用」を感じたことはありますか。
発信してきたほうがもっと仕事で声がかかったかもしれません。でも、控えめにやっているほうが、見る人が見てくれているという感覚があります。ばったり会った人に「あれ木下さんがやっていたんですね」と言われることが実は多いです。「私がこの仕事をやりました」と声を大にして言うより、調べてたどりついて「この仕事は木下さんですか」と言ってもらえるほうが、より強く心に残ってくれているかもしれない。
それに、私が作っているというより、みんなで作っている仕事です。「私がやりました」と強く言うのは違う気がして、「関わった」くらいの言い方が正しいのかもしれません。
──プロデューサーでありながら、自ら撮影や編集など手を動かしている理由は。
別に何でも自分でやりたがっているわけではないのですが、自分でやったほうが、やりたいことの正解に早く辿りつけると思っています。いろんなスタッフを入れることで、かえって進まないことや、クライアントが目指すものと少し違う方向に進んでしまうこともあって、その調整役がプロデューサーの仕事なんですよね。
もちろん、自分の手では到底できない案件はスタッフに任せます。うまく導いてくれるスタッフも多いけれど、そうでない場合はストレスになることもあります。自分でやったほうが結果的に皆さん満足することが多いと判断した案件はできる限り自分でやる、ということです。
──「何役もこなす」スタイルを、ご自身ではどう捉えていますか。
「プロデューサーって結局何をする人なんだ」と、昔からよく聞かれます。「スタッフィングして、調整して、お金を管理して」と説明してもピンとこない。でも、ディレクションも編集もカメラも、結局は全部プロデュースなんですよね。プロデューサーというくくりの中でできることを全部自分でやる、ということかもしれない。みんなが思い描くプロデューサーの役割から、ただ広がっていっているだけ。あくまでベースはプロデューサーです。
──カメラを撮り終えた瞬間に感じることはありますか。
ディレクターとして現場に行く時、カメラマンとして行く時、プロデューサーとして行く時。それぞれ全く違います。行きの車の中で考えることがそもそも違う。もちろんどのポジションで行く時も絶対に失敗は許されないですから。すごい緊張します。特にカメラの時。なので、無事に撮り終えた時の安堵感はすごいですね。現場の隅っこでパイプを吸うのが儀式になっています(笑)


──これまでで一番大きな転換点は。
一つは、最初のANAのCMです。あのおかげでプロデューサーになれた。演出もカメラもできることが成功につながり、自信になった。あれが第一の転換点でした。二つ目は『THE FIRST TAKE』です。今まで当たり前のように外部の方にお願いしていた作業を全部自分で賄えるようになった。成功事例になって、二度目のブレイクスルーになりました。(前編参照)
──今後やりたいことは。
TYOが日本テレビホールディングスの傘下になったことで番組作りにも興味が湧いてきています。CMもMVもYouTubeチャンネルもやってきたので、テレビ番組のようなコンテンツ──地上波でなくてもいいのですが──に、自分の中でチャレンジしたい。いわゆる「ザ・広告」しているものは、正直、今はなかなか受け入れられない。面白いコンテンツであれば、結果的にそれが広告や広報につながると思うんです。『ひみつのPRIME』も、誰も広告だと思っていないのが幸いで。そういうものを作っていければと思っています。
──「長持ちするコンテンツ」と「消費されて終わるコンテンツ」の違いはどこにあると思いますか。
企画の根幹はもちろん大事です。その上で、それを映像として具現化するときの美学、美的センスにはかなりこだわり続けています。いい映像、いい写真を学生時代から趣味で見てきて、自分でも撮ってきた。そこはプロデューサーというより、作り手としてのこだわりかもしれません。
好奇心も大きいですね。スマホを持っていないから、移動中は外を見るしかない。「新しい店ができたな」「新しいイベントをやっているな」と、目線が自然と外に向く。新しいものを吸収したいという好奇心が、仕事にもつながっている気がします。

──生成AIを、制作にどう取り入れていますか。
おそらく日本で一番多く触っているプロデューサーだと思います。実際にAIを使ったCMをどんどん手がけている。AIと自分がいればCMは作れる、というところに、かなり近づいてきてはいます。
ただ、それが正解だとは思っていません。人の感情で人を撮ることは当然大事です。一方で「ここはAIでいい」「今まで通り時間をかけなくていい」という部分も、制作業務にはたくさんある。そこはどんどん任せて、空いた時間とお金を別のことに使う。取捨選択して、「ここはAI、ここは人の手で」とやっていったほうがいい。
AIに触れていない人が多すぎて、自分はびっくりしてしまいます。早くみんなが気づいて、強みにしていけば、もっと強いプロダクションになる。今まで通りの作り方を継承しつつ、AIも駆使する──そのハイブリッドが、間違いなく今後の世界です。AIで業界が大きく変わるというより、ツールが一つ増えた、という感覚に近い。PhotoshopやIllustratorと同じで、使いこなせばよりいいものができる、ということだと思っています。
──TYOを目指す人へのメッセージをお願いします。
自分が好きなことを見つけて、それを進める。それを咎めなしでやらせてくれる会社なので、リソースを存分に生かして、やりたいことをやってほしい。誰も怒らないし、失敗ということはない。うまくいかなかったらみんな助けてくれる。私もそうやってここまで来ました。やりたいことが多すぎてどうしていいかわからない人も、全部やっていいんじゃないでしょうか。
制作進行として入ってきた子たちが「それ以外のこともやっていいんですか」と聞いてきます。でも、何をやってはいけない、なんて決まっていない。進行管理を極めるのも大事だけど、それだけじゃない。ヘアメイクが得意ならヘアメイクの仕事をしていいし、CGが得意なら新しいやり方でやっていい。「やっていいんですか」ではなく、やりたいことがあればやっていいんです。
── 一緒に仕事をしたいパートナー企業へのメッセージは。
CMに限らず、いろんなコンテンツ作りをやっています。長く愛されるコンテンツになっているものも多いので、そういうものを作りたいと考えているクライアントにとっては、いいパートナーになれると思います。企画の段階からお手伝いできますし、最後の納品パッケージまで全部できる。しかも半分くらいは自分でやりますので、恐ろしく頼りになると思いますよ、ご予算の部分でも(笑)
既存のものではない何かを漠然と考えている方がいれば、一緒に考えて、作り出していけると思います。

インタビュー(前編)はこちら:
『演出も、撮影も、編集も。『THE FIRST TAKE』『ひみつのPRIME』を手がけるTYOプロデューサー・木下健太郎の知られざる仕事術』