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2026.06.17

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MONSTERDINER

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演出も、撮影も、編集も。『THE FIRST TAKE』『ひみつのPRIME』を手がけるTYOプロデューサー・木下健太郎の知られざる仕事術

TYO MONSTERの木下健太郎は、自ら演出・撮影・編集までを手がける異色のプロデューサーである。一発撮りの音楽パフォーマンスを届けるYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』、タクシーメディア「TOKYO PRIME」のオリジナル番組『ひみつのPRIME』、伊藤園「お~いお茶」の大谷翔平選手を起用したCMなど、形式もメディアも異なるコンテンツを次々と生み出してきた。「撮影も自分がやる」と手を挙げた20年前の経験を起点に、いかにして独自の“ワンオペ”スタイルを確立したのか。木下の仕事の軌跡に迫った。


木下 健太郎(きのした・けんたろう)
株式会社TYO MONSTER/DINER。Chief Executive / Executive Producer / Director。プロデューサーを務めながら、自ら演出・撮影・編集も手がける。主な担当作に、一発撮りの音楽パフォーマンスを届けるYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』、タクシーメディア「TOKYO PRIME」のオリジナル番組『ひみつのPRIME』、伊藤園「お~いお茶」、ライフネット生命「正直劇場」シリーズなど。
主な受賞に、2020年 D&AD ゴールド/One Show ゴールド、2021年 広告電通賞フィルム部門金賞(SONY 360 Reality Audio)、2021年 ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS メディアクリエイティブ部門・ブランデッドコミュニケーション部門・フィルム部門Bカテゴリー・マーケティングエフェクティブネス部門の各グランプリ(THE FIRST TAKE)、2024年 ACC メディアクリエイティブ部門ゴールド(ひみつのPRIME)など。


「ワンオペ」スタイルの原点

──プロデューサーになった経緯を教えてください。

きっかけは、ANAのCM「LIVE/中国/ANA」でした。タレントさんが2〜3日旅をして帰ってくる、その間をずっとVlog的に撮るというCMで、20人ほどのタレントさんをお一人ずつ、ほぼ毎月旅にお連れしました。当時は「Vlog」という言葉もなかったので、手法としても新しかった。考えたのはクリエイティブチームで、今でも超一流と言われる方々でした。

そのプロジェクトをうまく遂行するにはどうすべきかを考えたとき、少人数で、ディレクターを一人だけ入れて、あとはタレントさんに自由に旅をしてもらう、という形が浮かびました。ただ、本当に二人だけで旅をするので、カメラの腕も、タレントさんとのコミュニケーション能力も要る。ただ黙っているだけではダメで、「ちょっとこっち行ってみましょうよ」「これ食べてみましょうよ」と、いざなえる人でないと成り立たない。

今でこそカメラを回せる人はいくらでもいますが、当時はそういう立ち回りができる人が本当にいなかった。「誰が適任か」となったとき、自分が一番できそうだという感覚がありました。学生時代から趣味で写真や映像を撮っていて、元々一人で世界中を旅していたので、その立ち回りも得意だった。だから、自分で回せると思って手を挙げたんです。

※「LIVE/中国/ANA」テレビCMシリーズ

──当時はプロデューサーになるのが難しい時代だったそうですね。

年次でプロデューサーになるというより、クリエイティブディレクターから「木下君でお願いします」という指名を受けないとプロデューサーになれない、という時代でした。何とか爪痕を残したいという気持ちもありました。ANAのプロジェクトでは、コーディネーター、撮影、制作進行も携わって、結果的に大成功でした。次のシーズンも任せていただき、クリエイティブディレクターから「次の仕事も」と声をかけられた。それがプロデューサーになったきっかけです。20年前のことです。

引き算のクリエイティブ──『THE FIRST TAKE』

──YouTubeで大人気コンテンツとなった『THE FIRST TAKE』について教えてください。

大人数でワーッとつくるテレビCMが徐々に減り、デジタル案件が増えていく中で、「少人数で回せるユニット的な部署があるといい」ということになり、そのリーダーを、と言われました。このフロアを与えるから好きにやっていい、と。そうして立ち上げたのが「DINER」、自分がカメラも演出も編集もやる、という前提のスモールユニットです。

さあ何をしようか、と思っていたら、いきなり音楽レーベルの知り合いから「音楽に特化したYouTubeチャンネルを作りたい」と連絡が来た。「できますか」「もちろん」という流れで、それが最初の仕事になりました。

──「これはいける」と感じた瞬間はいつでしたか。

正直、YouTubeの音楽チャンネルは未知数だったので、「3ヶ月手探りでやってみて、登録者数5,000を超えなかったらやめよう」と2019年11月にスタートしました。その1ヶ月後にコロナ禍が始まった。急にライブができなくなり、外出もできなくなって、みんなYouTubeを見るようになった。全てのタイミングがハマり、ある意味神風が吹いた、と思いました。

コロナ禍で、スマホで動画を見るのが当たり前になっていて「手の込んだガチャガチャした映像はちょっと目がちらつく」「もう少し動きのない、しっくりくる映像のほうがいい」という声がチラチラ聞こえていた。そこで、画面固定、カメラを動かさない、背景はシンプル、という方向にし、どんなアングル・カメラワーク・色味がいいかを散々テスト撮影しました。「これならしっかり見たくなる」とみんなで掴んだ瞬間に、一本目を撮ってアップ。探り探りでした。

「一発撮り」というコンセプトと『THE FIRST TAKE』という名前はクリエイティブディレクター清水恵介さんの賜物です。それをうまく再現するために、どういう撮影で、どういう編集で、どういうサイクルで回すかを、DINERが全面的に請け負いました。極力シンプルにしたのは、予算的なこともあり、カメラは固定、背景は白バック。でも、それでかっこよく撮る方法はいくらでもある。制約をうまく逆手に取った結果が、あの形なんです。

──チャンネル登録者数は、2026年6月3日現在で約1,200万人に達しています。

1,200万人に到達したことよりも、初期はすごく少人数で、最初に100万人に到達した瞬間のほうが、「みんなですごいところに来たな」という気分になりました。100万人を超えた2020、21年頃も、一人でプロデュース・編集をやっていました。撮影の量も多かったし、「本当に頑張ったな」という気持ちがありました。

現場は張り詰めています。アーティストの方が緊張して、一発で撮り終えて帰っていく。私たちはそれを見届けるしかないので、集中を切らさないよう送り出し、終わったら拍手で迎える。カメラが入る前に「喋っても、喋らなくても、すべてお任せします」とだけ伝えます。皆さん過去の動画をほぼ全部見てきていて、「自分らしさ」をどう出すかを決めてこられる。だからあえて、私たちは何もディレクションしません。

※木下がプロデュース、編集を手掛けた動画。2026年6月現在、再生回数は2.3億回を超えている。

1分間の“ナイショ話”──『ひみつのPRIME』が生まれるまで

──『ひみつのPRIME』は『THE FIRST TAKE』の成功から生まれた企画だそうですね。

『THE FIRST TAKE』を見た方からのご依頼で、「タクシーのサイネージ枠を、もっと上質な時間にしたい」というお話をいただきました。タクシーに乗るのは、それなりの年齢で、仕事をしている人が多い。仕事の合間に、一瞬でも有益な話やひと休憩になるものを届けたい、と。アテンション強めの動画が多い中で、「これ見てよかったな」「いい話が聞けたな」と思える番組を目指しました。

今が旬の、「この人の話なら聞いてみたい」というゲストを呼んで、その人にとっての“ナイショ話”を引き出す。「ここでしか言えない」「他のメディアでは言えないことを、ここでなら喋っちゃおう」というコンセプトのナイショ話情報番組です。

──うさぎのキャラクター「ラヴィさん」の設計で意識したことは。

人間同士のトーク番組でもいいのですが、横にラヴィさんがいると、ゲストが「この子が聞いているなら喋ってもいいかな」という気持ちになりやすい。何かを話してもいいと思わせるためのパペットにしました。「人生経験豊富なお姉様」という裏コンセプトもあって、スナックや夜の喫茶店的な世界観にしています。声を担当するMEGUMIさんがその世界観に本当にマッチしていて、深い話を引き出して進められる。もうMEGUMIさんしかいないという感じでした。

──「余白を残す」編集や、世界観へのこだわりについて。

色味も抑えています。音は、いきなりタクシー広告がバーンと始まるのではなく、静かに、電気がつくところから始まるようにしている。深夜の仲間内のトークのような空気の中で、音作りにはものすごくこだわっています。これは、画面を見てもらうため、消されないための仕掛けでもあるんです。

キャラクター起点の表現。ライフネット生命「正直劇場」

──『ひみつのPRIME』から派生した案件だそうですね。

ほぼ同じクリエイティブチームで、「『ひみつのPRIME』のような感じのものを」というご依頼でした。それがライフネット生命の「正直劇場」シリーズです。保険会社なので、伝えなければいけないことが多すぎて、普通に喋っても30秒間喋り通しになる。だったらそれを逆手に取って、人間が一方的にガーッと喋るより、人形が喋っているほうがかわいく聞いてもらえるかな、と。かわいい顔なのに野太い声(津田健次郎さん)というギャップも狙いました。

舞台のお芝居を参考にしました。普通のCMを撮るというより、30秒びっしりのセリフを通しで喋ってもらって3カメで撮る、という、ひみつのPRIMEと同じ撮り方です。カメラのアングルも固定で、撮り方としては一貫しています。クライアントの皆さんは「かわいい、かわいい」「動きも面白い」と大喜びでした。

大谷翔平を撮り尽くす2時間──伊藤園「お~いお茶」

──100%プロデューサーとして関わった大規模案件だったそうですね。

規模がとんでもなくて、LAの撮影スタジオに200人ほどがいるレベルでした。大谷翔平選手がカメラ前にいられる時間は、インアウトで2時間。その間にCM3本とグラフィックを撮りきる。スタジオに全CMのアングルとセッティングを用意して、大谷選手が歩いて立てば、チームが3ヶ所で同時に撮る。1回着替えてグラフィックを10カットほど撮り、また着替えて戻ってCMを撮り、グラフィックに行って戻ってくる。この流れを2時間ぴったりでやりきらなければならない。

全ての動線が完璧に流れないと駄目なので、2日間リハーサルしました。同じセッティングを組み、大谷選手の代役を立て、監督が歩きながら「ここに立ってください」と本番同様に流す。ところが2日間やって、一度も時間内に収まらなかった。本番は本人が来れば当然変わるし、日本語が通じないスタッフも多く、調整のたびに何秒かずれてしまう。

撮影前夜、クライアントの副社長さんが心配そうな顔で「大丈夫ですか」と。相当なプレッシャーがありました。当日は、プロデューサーが現場で前に出ることは普段あまりないのですが、誰かに任せる余裕もないので、私がカメラ前で全部声を出しながら2時間を通し切りました。全カット撮り終わってストップウオッチを見ると残り7秒。大谷選手も一緒になってみんなワーッと盛り上がって、終わった瞬間に副社長に握手を求められ、「素晴らしい!」と言ってくれた。本当に嬉しかったです。

「人が集まる場所」をつくる──DINER

──ユニット名「DINER」と独特のオフィス空間について教えてください。

元々ファミレスが好きで、友達と深夜にコーヒーを飲みながらずっと喋る、ということを日常的にやっていました。アメリカのそういった場所も大好きで、人が集まって作業したり喋ったりできる場所にいいなと思って、それをそのまま作りました。自分でコーヒーを持ち込んで、喫茶店くらいの感覚で皆さんに使ってもらえたら、という空間です。

設計も全部自分でやりました。設計士がいないので、「これをこうしてください」と全部指定して。空間のプロデュースが大好きなんです。建築やお店を考えるのはすごく好きですね。

※木下が空間プロデュースを手がけた「DINER」のオフィス。様々なスタッフがここに集いクリエイティブアイデアを膨らませている。

インタビュー(後編)はこちら:
『SNSもスマホも持たない。それでも仕事が集まってくる。TYOプロデューサー・木下健太郎の流儀』

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