1982年の創業以来、テレビCMを中心に映像をつくり続けてきたTYO。年間1,000本を超える映像制作を手がける同社が、いま二つの新規事業に取り組んでいる。企業の経営メッセージを映像にする「ステートメントムービー」と、まだ知られていない日本各地の魅力をノンバーバルな映像で世界に発信する「Another Side of Japan(アナザー・サイド・オブ・ジャパン、以下ASJ)」である。
TYOに寄せられる相談は、二つの事業の枠に収まらない。企業のパーパス・ミッション・ビジョン・バリューを再定義したい。周年に向けてブランドやメッセージ、年表を整理したい。コーポレートサイトを見直したい。トップインタビューをコンテンツにしたい──。様々な課題や相談が、映像制作の依頼と地続きで持ち込まれてくる。
TYOはプロデューサーが主導するチーム体制のもと、広告映像からSNSやオンラインで届ける動画コンテンツ、ウェブサイト制作やイベントなどのソリューションを幅広く手がけ、戦略の設計から企画制作、そして公開後の浸透施策まで一貫して伴走している。統合的な支援の中でも、二つの新規事業のニーズが高まっている。
事業開発本部BizDevのLead Business Producerとして、両事業を現場で動かしている一人が竹下葵だ。パートナー企業や地域との共創事例を一つずつ積み上げてきた。二つの事業がどのように育ってきたのか、そしてこの先にどんな共創の可能性が広がっているのかを聞いた。
竹下 葵(たけした・あおい)


株式会社TYO 事業開発本部 Third / BizDev。Lead Business Producer。2020年に新卒でIT業界に入り、営業、技術、事業開発を経験。2024年6月にTYOへ入社。事業開発本部Thirdに所属し、2025年1月のBizDev立ち上げ以降、映像コンテンツシリーズ「Another Side of Japan」と、経営コミュニケーションを支援する「ステートメントムービー」の二つの新規事業を担当している。
──これまでの略歴を教えてください。
新卒でIT業界に入って、営業も技術も事業開発も経験しました。映像制作の世界とはまったくの畑違いです。
前職の縁で、現在BizDevを率いる小川祐紀に「新しいことをやるから、一緒にやらないか」と声をかけてもらい、2024年の6月にTYOに入りました。いま2年目です。
2025年1月にBizDevが立ち上がってからは、BizDevのLead Business Producerとして、お客様からいただいたご相談をベースに案件を進めながら、事業そのものも自分たちで立ち上げる、という仕事をしています。
「ステートメントムービー」と、「ASJ」の立ち上げにも携わりました。お客様の課題解決になる案件を手がけながら、自ら事業開発ができるというのは、個人的にはすごく合っていると思っています。

──Lead Business Producerとして、どのような動き方をしていますか。
基本は企業や自治体、団体のみなさまから様々なご連絡やご相談をいただき、社内のプロデューサーと連携しながら、課題やご要望に即した、映像コンテンツを中心としたソリューションをともにつくっていくという仕事です。
並行して、共創相手を探しに行くという動きもあります。TYOとして展示会やイベントに出展して、そこで足を止めてくださった方とお話しする。IR領域のコンサルティングをされている会社や、印刷会社などのパートナー企業ともコラボしています。
扱う範囲は、テレビCMのような広告映像とはかなり違います。ASJもあれば、ステートメントムービーもある。ステートメントムービーのほうは上流の整理と連動していて、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの再定義や、ブランドの整理・リブランディングといったご相談も入ってきます。年表を整理したい、コーポレートサイトを見直したい、イベントを実施したいといった、映像以外のご依頼も少なくありません。お問い合わせの幅は、入社前に想像していたよりずっと広いです。
──映像以外のご相談にも応えていけるものなのでしょうか。
その体制はあります。TYOには、広告映像を手がけるプロダクションチームに加えて、ウェブサイトの制作チームや、ブランドマーケティング・パフォーマンスマーケティングなどの施策を担うチーム、事業開発を担うチームまで揃っています。演出家のチームもある。グループやパートナー企業を含めると、アウトプットの手段はとても多様です。
最初のご相談が映像でなくてもいいと思っていますし、「映像をつくりたい」というご相談から始まっても、お話を聞くうちに、その手前の文脈の整理や関係者へのインタビューから一緒にやりましょうという流れになることもあります。特にステートメントムービーというサービスは戦略の設計、言語化、映像としての表現、そして公開後にどう活用して効果を最大化させるかまでを一続きで考えるものなので、自然とそうなるのだと思います。

──ASJとステートメントムービーでは、立ち上げの進め方が違ったのでしょうか。
かなり違いました。ステートメントムービーは小川と二人三脚のような感じで立ち上げて、IR領域と接点をお持ちのパートナーとまず会話をしよう、ということになりました。
パートナーにとっては映像という新しい提案材料が増えますし、私たちは企業の経営課題についてまだ深く理解できていなかったので、そこを補いつつインストールしていただく。そういうパートナー探しから始めました。立ち上げから1年ほど経って展示会にも出展するようになってからは、企業の方からご相談をいただくケースも増えてきています。
ASJのほうは、観光領域として鉄道会社や航空会社など、他業界から来た私にも構造が見えるところから接点を持ち、コラボ事例をつくっていきました。最近は自治体と関係性の深いメンバーも加わり、各地の自治体との共創事例も生まれています。
──協業先やお客様との最初の接点は、どのように生まれることが多いですか。
最初のころは、どうやって新しい接点をつくればいいのかがわからず、そこが一番苦労したところでした。映像制作の商習慣も知らないまま入ってきたのでなおさらです。
展示会に行ったり出展したりするようになって、ようやく道筋が見えてきました。しばらくは、ブランディング支援や地域振興をテーマにした展示会にかなり足を運んでいました。
ステートメントムービーもASJも、共感していただいて「いいですね」と言っていただけることが多い事業だと感じています。ご相談をいただいてからプロジェクトをご一緒できるところまで進む確率は低くないと思っています。
──ASJでの具体的なプロジェクトを教えてください。
JR西日本グループとの取り組みは、いまASJの中心的な事例の一つです。きっかけは、JR西日本グループの展示会にうかがったことでした。
お話ししていくうちに、JR西日本コミュニケーションズが運営する通訳ガイドマッチングサービス「Gold Guide」が、ASJとほぼ同じ時期に立ち上がった事業だとわかったんです。しかもコンセプトがASJと近く、地域の知られざる魅力を、ガイドを通じて伝えていくというものでした。これは本当にシナジーがありますね、と盛り上がりました。
先方の課題は、ガイドの方が持っている知見を、なかなか直接旅行者に還元できていないことでした。すでに組まれたツアーの工程をガイドが一緒に回るという形だと、その方ならではの案内を活かしきれない。ASJは「知られざる魅力」がキーワードの一つですから、その課題が私たちのソリューションにぴったり重なりました。
ガイドブックには載っていない、ガイドの方ならではの視点をお借りして、私たちが映像をつくる──その映像は、先方のガイドツアーのためのコンテンツとして使っていただけますし、駅のデジタルサイネージやJR西日本グループのSNSでも発信できる。お互いにうまく活かし合えている状態だと思います。
2025年9月には、JR西日本が推進する「せとうちパレットプロジェクト」との連携として、岡山県倉敷市を舞台にしたタイアップ映像「岡山・倉敷篇」を公開しました。鷲羽山から望む瀬戸大橋や瀬戸内の多島美、児島ジーンズストリートでのデニムづくり体験などを、Gold Guideに所属するガイドの知識も活かしながら構成しています。せとうちエリアでは、倉敷のほかに尾道、しまなみ海道、熊野など、複数の映像を制作してきました。
──印象に残っている映像はありますか。
広島県の熊野町を取り上げた映像です。熊野筆は世界的に知られている一方で、熊野町まで足を運ぶ方はあまりいません。ですから、筆そのものだけではなく、なぜこの土地で筆が発展したのかというところまで掘り下げました。工房はもちろん、地元の高校生や、町のお好み焼き屋さんにも取材しました。
最初は、熊野町役場や観光協会の方に電話で取材のお願いをするところから始まりました。実際に町を挙げて協力してくださって、JR西日本の方も現地に来てくださいました。最終的には、熊野の魅力を丁寧に見せてくれてありがとうございます、というお言葉までいただきました。
──その後、思わぬ広がりもあったそうですね。
熊野の映像をSNSで見たフランスの画家の方から、熊野筆とタイアップしたいというメッセージが直接届いたんです。私たちが窓口になって、現地のつくり手の方をご紹介してお繋ぎしました。
映像が実際に地域へ還元されて、現地の方にも喜んでいただき、それがまた次のプロジェクトにつながっていく。ASJという事業にとって、とてもいい循環が生まれた例だと思っています。
ASJ全体としても、2024年9月の配信開始から、SNS・動画プラットフォームにおけるフォロワー総数は2026年7月時点で30万人を超えました。欧米豪やアジアなど50以上の国と地域に届いています。2026年3月にはクールジャパン官民連携プラットフォーム主催のCJPF AWARD 2026でムービー部門グランプリとプロジェクト部門準グランプリを同時受賞し、第8回日本国際観光映像祭でも優秀賞をいただきました。さらに、USインターナショナルアワードで金賞、カンヌ・コーポレート・メディア&TVアワード2026で銀賞するなど、国内外での評価が着実に高まっています。
──成田国際空港との連携についても教えてください。
2025年9月から、第1旅客ターミナル北ウイングの3面マルチビジョンや、国際線到着コンコースの動く歩道沿いに並ぶ縦型ビジョンで、ASJの映像を放映していただいています。空いている枠を活かして、その場所に合った映像をお届けしています。

成田国際空港とも、展示会での出会いがきっかけでした。私たちとしては、空港のサイネージでぜひASJのコンテンツを流していただきたいという思いが最初からあり、それが先方の思いともうまく合致したかたちです。
訪日客のみなさまが日本に到着して最初に目にする映像がASJである、というのは大きいと思っています。空港の方々からも映像のクオリティについて高く評価してくださり、「いつもありがとうございます」とおっしゃっていただけます。映像にはQRコードを載せているのですが、それを読み取って実際に見てくださる方もいらっしゃいます。
ASJで取り上げた自治体や観光事業者の方々が喜んでくださることも含めて、ASJ自体のブランディングにつながっているのかなと思います。デジタルでの発信から始まり、リアルな場へ広がってきた実感があります。

──もう一つの柱であるステートメントムービーについても教えてください。
ステートメントムービーは、企業理念や存在意義、経営メッセージを映像として可視化し、従業員や採用候補者、株主・投資家といったステークホルダーの共感と共鳴を生み出すための映像です。2025年6月にはサービスサイトを公開しました。
お客様とお話ししていて感じるのは、IRの領域などで、発信の仕方がテキストだけでは難しくなってきているということです。株主の皆さんにもっとうまくビジョンを発信したい、という企業の経営課題がある。そこに映像という選択肢を提示することで、会話がとても進めやすくなっています。
対応できる幅も広がってきました。映像だけでなく、さらに上流の訴求文脈の整理から入ることも増えていますし、映像以外のアウトプットも広がっています。事業としては確実に伸びています。
──難しさはありますか。
お客様と会話を重ねて、納得感のあるソリューションにたどりつく。それを社内のプロデューサーやプランナーに正確に伝えて、最終的に映像というアウトプットまでつなげていく。ここが最も難しいところです。
ただ、難しさはありつつ、社内にも一緒に考えてくれるメンバーがいて、お客様にもステートメントムービーの重要性が浸透してきています。うまく回り始めているという感覚があります。
展示会でお会いして、その場で30分ほど立ち話をしたことから始まったお客様がいます。リブランディングを考えていて、ミッション・ビジョン・バリューから考え直したい、サイトも変えたい、いろいろな施策をやっていきたい、と。
そこでワークショップを実施して、パートナーの皆さんと一緒にミッション・ビジョン・バリューをつくり直すところから入りました。私自身、それまでやったことのない領域でしたが、いまはそこから派生して、コピーやタグライン、キービジュアル、映像へと一貫してアウトプットがつながっています。
経営課題などの上流から入ると、その先の施策やアウトプットまで一緒に伴走できますし、お客様との関係も深まります。これが理想的なかたちだと考えています。

──お客様からかけられて嬉しかった言葉はありますか。
一緒に整理した言葉をコピーとしてお出ししたときに、「泣きそうになりました」「心が震えました」「これ以上、修正することはありません」と言っていただけたことがあるんです。嬉しかったですね。
また「最初の説明がわかりやすかったです」とおっしゃっていただけたときもあります。ステートメントムービーをつくられる企業の方は、こういう施策が初めてというケースが多いです。お客様の立場に立って、お客様の狙いや一つひとつの工程を確認しながらご説明するようにしています。一方的になりすぎないように、というのは常に意識していることです。
──パートナーとの連携も広がっていますね。
2026年6月に戦略的業務提携を発表した大日本印刷(DNP)さんとの連携は、とても奏功しています。先方からご相談をいただくことも増えました。
個別のお客様の課題に寄り添うコンテンツを手がけつつ、結果的にマス向けの領域までできるというのが、私たちTYOの強みだと思うんです。インターナル(内部)向けもできるし、エクスターナル(外部)向けのソリューションも、全般的に対応できる。どちらも手がけているからこそ、パートナーの方々にとっても組みやすい相手になれているのではないかと思います。
──TYOという会社の強みは、どこにあると感じていますか。
1982年から映像をつくり続けてきた会社ですから、40年余りの制作実績がたくさんあるということ。映像をはじめとしたあらゆる表現を実現可能にするプロデューサー陣を擁しているということ。これは本当に強みだと実感しています。
前職では、既存のお客様もいなければ実績もない状態で、新しいサービスをどう届けるかということに奮闘していました。過去の実績があるとないとでは、まったく違う。制作実績をお伝えすると、お客様の信頼が最初から違うんです。それは、社内向けの映像をご相談いただく場面であっても大きな強みになっています。
──今後、取り組んでいきたいことを教えてください。
いまのASJの取り組みを様々な地域に展開しながら、もっと地域と密に、深く取り組むことはできないかと考えています。ステートメントムービーについては、より経営課題に直結するところから深く伴走できるようになりたい。
企業・団体の周年に関わるご相談も増えてきました。映像がメインという話から始まっても、そこから派生して、年表を整理したい、周年のキャッチコピーをつくりたい、このタイミングでサイトもリブランディングしたい、というように相談が広がっていくこともあります。私たちの知見や表現でお応えできる範囲を増やしていきたいと思っています。
アウトプットはグループやパートナーを含めれば実に多様です。その手前の戦略のところをフレーム化して、他のメンバーでも同様に進められる状態もつくっていきたいです。
そして、二つの新規事業に続く、映像を起点とした「第三の矢」を生み出せるといいですね。新しい事業をつくって、磨いて、届けていく。大変ですが、面白い仕事だと思っています。


第7回 TYO学生ムービーアワード
12月16日までエントリー受付中!