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2024.08.22

Brand / Unit

Third

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引退した競走馬に豊かな余生を──元JRA調教師 角居勝彦さんら創業者の思いをステートメントムービーに。石川県能登半島・珠洲市「みんなの馬」ブランディングプロジェクト

「競走馬の厳しく悲しい運命から1頭でも救いたくて、プロジェクトは走り出しました」。

馬の寿命は20〜30年、飼育費用は年間約100万円と言われている。現役時代は激しい競争に晒されながら、引退後は殺処分されることも多かった競走馬の「余生」を支援する取り組みが、各地で生まれ始めている。

TYO内の共創プロデュースチーム「Third」では、石川県能登半島の珠洲市で、引退した競走馬が新たな価値を生み出しながら豊かなセカンドキャリアを送ることを目指す「みんなの馬」プロジェクトのブランディングやプロモーションを支援している。

第一弾として、プロジェクトの「ステートメントムービー」を制作。引退競走馬をめぐる課題にチャレンジする創業者たちの思いや、街の人とともに生きる馬たちの姿を描いた映像が出来上がった。

ステートメントムービーのコピーは、北陸三県で働くコピーライター・CMプランナーの団体「北陸コピーライターズクラブ」(HCC)が選ぶ、北陸で最も優れた広告の企画やコピーを讃える「第36回HCC賞」を受賞した。

2023年5月に能登半島で発生した地震に続き、2024年元日の地震でさらに大きな被害を受けた珠洲市における、巨大地震の狭間の地域の姿を描いた記録としても貴重な映像となった。昨夏にオープンした施設も震災で被災し営業を停止。再始動を目指して伴走支援を続けている。

プロデューサーの岸本高由と伊藤嵩が本プロジェクトのあゆみを語った。また「みんなの馬」代表取締役CEOの足袋抜豪氏と、取締役COOの角居勝彦氏にも話を聞いた。


プロジェクト概要
みんなの馬株式会社 ブランディングプロジェクト

Year 2023〜
Brand/Unit Third

TYO’s Staff

Producer: 岸本 高由
Producer: 石松 剛
Producer: 伊藤 嵩
Project Manager: 北風 親花

Staff Credit

Copy Writer: 樋口 晃平(FIELD MANAGEMENT EXPAND)
Art Director: 尾坂 圭介(FIELD MANAGEMENT EXPAND)
Director/Edit: 村山 和也
Cinematographer: 沼尾 優貴(CRANK)
Drone: 前川 拓也
Music: 谷口 亮介(Ongakushitsu)
Edit: 工藤 将人(McRAY)
Color: 今西 正樹(Omnibus Japan)


プロフィール

Producer: 岸本 高由

Producer: 伊藤 嵩


メンバーの移住を機に、珠洲市との交流が始まった

──「みんなの馬」ブランディングプロジェクトが始まったきっかけを教えてください。

岸本 TYOとして、内閣府・内閣官房が推進する「地方創生テレワーク推進運動」に賛同し、場所を選ばない自由な働き方を進めている中で、共創プロデュースチームThirdでは複数の地域を拠点として、地域の人々との交流を通したクリエイティブな事業開発を行ってきました。

メンバーが移住したことをきっかけにThirdとして石川県珠洲市に活動拠点を持ち、テレワークメンバーが現地のコミュニティとともに珠洲市の魅力発信や関係人口の創出を目指して活動してきました。

そんな経緯があり、石川県の奥能登地域の活性化を目指してスタートアップや現地企業を支援する「のとSDGsファンド」(奥能登SDGs投資事業有限責任組合)が珠洲市で開いた集まりに参加し、ファンドの投資先である「みんなの馬」の話を伺いました。

伊藤 みんなの馬は、馬と人と社会のコミュニケーションを通じて社会課題の解決を目指す会社です。代表取締役CEOの足袋抜豪さんや、取締役COOの角居勝彦さんにお会いし、Thirdとしてプロモーションの領域でお力添えしていこうということになりました。2023年春ごろのことです。

(「みんなの馬」ホームページ(2024年6月現在))

引退した競走馬に豊かな余生を──思いやビジョンを映像に

岸本 日本は競馬大国で、地方競馬を含めると毎日のようにレースが行われています。国内で年間、約8000頭のサラブレッドが生まれる一方で、毎年数千〜1万頭が競走馬を引退するとも言われています。その一部は殺処分されるという現実があり、引退競走馬たちの余生をサポートする動きが全国的に広がっています。

そんな中、元JRAの調教師として有名な角居さんを中心に、引退した競走馬が豊かな環境で余生を送るため、人と共生する森の放牧場を目指す「珠洲ホースパーク」の構想がありました。

伊藤 「珠洲ホースパーク」のオープンを控え、創業者たちの思いやビジョンを映像の形にするため、「ステートメントムービー」の制作に取り掛かりました。

みんなの馬 代表取締役CEO 足袋抜豪様 コメント

元々TYOさんについてはよく知らなかったのですが、偶然の出会いがあり「みんなの馬」立ち上げのタイミングから岸本さんには相談に乗ってもらっていました。話を聞いていく中で、これまでに見てきた色々な映像をTYOさんが制作していることがわかり、理解していきました。

岸本さんやチームのみなさんが私たちのプロジェクトに心から共感してくださっているのが嬉しく、打ち合わせを重ねる中で、みなさんの聞く力や提案力、創造性に信頼感が増していき、一緒に映像を作ろうということになりました。

引退した競走馬の現実を掘り下げ、生まれたコピー

──ステートメントムービー制作の過程やポイントを教えてください。

伊藤 引退馬の預託施設は全国各地にあります。ステートメントムービーを作るにあたって、みんなの馬独自の特色を表現する必要がありました。

創業者のお二人のお話を伺っていく中で一番のポイントだと思ったのが、馬主さんからの預託料で運営している施設が多い中、みんなの馬では、引退馬自身が生きていくために必要なお金を自分で稼ぐことを目指すというコンセプトです。

全力で走ってくれた競走馬にどう恩返しができるのか。角居さんが考えたのは、持続可能な施設運営と、引退馬の豊かな余生のため、馬自身の力を生かしてお金を稼ぐことでした。ホースセラピーや、企業を対象としたホースコーチングなど、さまざまな稼ぎ方を模索しています。

その点を掘り下げながら、コピーライターの樋口晃平(FIELD MANAGEMENT EXPAND所属)がコピーを作っていきました。「勝率で、命の長さが決められる。」「プロジェクトの目標は、月給8万円を馬自身が稼ぐこと。」というコピーはそのコンセプトから生まれました。

「月給8万円」という目標数字を出すかどうかはかなり議論しましたが、引退馬が直面する現実とみんなの馬のビジョンを正しく打ち出すために必要だと判断しました。

メンバーが珠洲市に滞在、足を運んで撮影交渉

撮影は夏から秋にかけて行いました。その前に、一緒に動いてくれたプロジェクトマネージャーの北風親花が珠洲市に1ヶ月程度滞在し、撮影させていただく予定の方々や関係各所に足を運び、事前の交渉や許可取りを進めました。

メールや電話でも交渉は可能ですし、長期にわたり住み込みで交渉するのは珍しいことでしたが、実際に地域の事情を知るためにも、珠洲市の皆さんに信頼していただき、今後も長く伴走していくためにも、実際に足を運ぶことが重要でした。

2023年の年末に納品したのがこちらの映像です。

街の中で、実際に馬を歩かせながら撮影しました。馬の視野は350度と広く、真後ろの10度だけが見えないため、真後ろに立つと蹴られてしまう可能性があります。馬のコンディションや周囲に注意しながら撮影を進めました。

馬を怖がって逃げていく人はおらず、周囲の人が全員笑顔になって集まってきたのが印象的で、馬の不思議な力を感じました。

その時点ではプロジェクトについて詳しく知っている人は少なかったのですが、市民の皆さんや子どもたちが集まってきて、たくさんの笑顔を映像におさめることができて、馬の懐の深さを感じました。本当にハートフルで幸せな撮影でしたね。珠洲ホースパークを知っていただく機会にもなったと思います。

倒壊した家屋の前のシーンを盛り込んだ理由

ムービーには2023年5月の地震により倒壊した家屋の前で、馬と女性が触れ合うシーンが登場します。2024年元日の震度7の地震以前にも、すでに倒壊している建物があったんです。

昨夏の時点で倒壊認定を示す赤い札が貼られている建物が2割ぐらいあり、すでに街は弱っていました。元々みんなの馬プロジェクトでは海岸のゴミを馬に運んでもらうなどの挑戦を行っていて、馬を災害救助や瓦礫の運搬に役立てようという動きがあります。そういったチャレンジも暗喩しています。

岸本 倒壊した建物のシーンを出すことについても慎重に議論しましたが、震災被害は切っても切れない要素として、盛り込む必要があると判断しました。

みんなの馬 取締役COO 角居勝彦様 コメント

色々な撮影カットの相談をいただき、街の中や学校、壊れた家屋の前などあちこちに馬を連れて行きました。繊細で、環境の変化に敏感な競走馬にできるのかな、と正直不安もありましたが、最悪なことを想定し安全対策をして、いざチャレンジしてみたら、馬たちはよく頑張ってくれました。

TYOさんには地域に密着し、粘り強く準備を進めていただきました。私たちではなく、TYOのみなさん自身が地元に入り込んでリサーチし、撮影の交渉や許可取りを進めてくれて、地元密着力が本当にすごかったです。

「感動しました」。北陸コピーライターズクラブのHCC賞も受賞

──納品後の反響はいかがでしたか。

ステートメントムービーは2023年12月27日に納品しました。試写では創業者のお二人をはじめ、関係者の方々に満足していただけたと思います。珠洲市長も「感動しました」とおっしゃってくださいました。その後、会社紹介のさまざまな場面でお使いいただいています。

コピーについては北陸コピーライターズクラブ(HCC)による「第36回HCC賞」を受賞しました。みんなの馬プロジェクトを広く知っていただける機会にもなり、良かったです。

みんなの馬 代表取締役CEO 足袋抜様 コメント

出来上がったステートメントムービーを見て、感動しましたね。会社紹介で流す場面も増えてきていますが、泣きそうになる人も多いです。映像のリアルな美しさと、言葉が響いているのかなと思います。

制作にあたり、インタビューを重ねる中で、コピーライティングを担当してくれた樋口晃平さんが大事にしているのはファクトなんだと感じました。真実をいかにわかりやすく伝えるかと模索していて、彼が引き出す角居さんの言葉がベースになっていきました。

「月給8万円」を出すか出さないかについては「生々しいからやめた方がいい」「真実を示したほうがいい」と議論があって、今となると、わかりやすく真実を伝えるために必要だったと考えています。

決して多弁ではない角居さんの思いを引き出して、ぐっとくる表現にまとめていただき感謝しています。現役の頃の角居さんは厳しい表情のイメージが強く、馬に寄り添う柔らかくて幸せな表情が映っていて、本当にやりたいことができているのだと感じました。

今年、さらに地震が起きて大変な状況ですが、復興への思いも込めてこの映像を大切に流していきたいと思っています。

みんなの馬 取締役COO 角居様 コメント

引退競走馬についてはかわいそうだとか、助けなきゃとか、怒りを抱く人もいるかもしれませんが、出来上がったステートメントムービーを見たら怒り、悲しみというより、頑張って支えていこうという思いを抱いてもらえる映像になっていて、素晴らしいと思いました。

撮影現場では馬をコントロールしてリクエストに応えることで精一杯だったので、馬や自分がどんな表情をしているか考える余裕はなかったのですが、出来上がった映像を見ると、馬や地元の人も含めてとてもいい表情を捉えてくれていて、思い出になります。今年の震災の前にこの映像を残しておいてくれて、よかったです。

震災被害で白紙になったプロジェクト

──2024年元日の震災の影響について教えてください。

伊藤 映像だけでなく、プロモーションやPR全体を設計し、パーク用のコピーやロゴ、ホームページなどさまざまな準備をしてきました。1月に珠洲ケーブルテレビで創業者の2人と市長が対談する番組を流し、その中でステートメントムービーを放映し、その後数日間にわたって広く市民の方々にお伝えする予定でした。

ムービーは元日に1回オンエアされましたが、能登半島地震が発生した影響で、2回目以降は白紙になってしまいました。珠洲ホースパークも被災し、馬たちは無事でしたが、現在に至るまで営業は停止しています(2024年6月現在)。

私自身、2月に現地にうかがったところ、街は瓦礫だらけで、地割れもひどく、家屋が積み重なるように倒壊していて、筆舌に尽くしがたい状況でした。

実際、私たちに何ができるのか。復興のために映像を通じてできること、いろんなことを考えて現地に入りましたが、正直に言うと、自分たちの無力さを痛感するばかりでした。水も出なくて、現地では日々を生きるだけで精一杯という様子でした。

それでも、共創プロデュースチームThirdとして一体何ができるのか。復興の希望になるようなアクションとは。できるだけコストをかけずに、営業停止中のみんなの馬のビジネスに協力できることはないか。広告や映像表現だけでなく、さまざまな施策を提案し、取り組んでいます。

その一つが、馬にジーンズを引っ張らせてダメージジーンズを作るという取り組みです。どれくらいのダメージが出るか、現在プロトタイプを試作中で、将来的に販売できればと考えています。そのほかにも今我々にできることは何かを考えて、様々な提案や支援を行っています。

震災の記録や復興、事業の再生をともに考え、ともにチャレンジする

岸本 TYOでは「プロデューサーをプロデュースする」というミッションもあります。広告の映像を制作してきたプロデュース力は、他にも様々な領域で発揮できる可能性を持っています。クライアントのみなさまと私たち、双方にとってポジティブになる新施策をプロデューサーが積極的に提案し、新規事業も含めたさまざまなチャレンジを推進しています。

伊藤 テレビCMやドラマなどの映像制作で培った経験やスピード感を生かして、クライアントの相談や課題に応じてさまざまなアウトプットの形を想像し、ビジネスの設計も含めた多様な提案ができ、強い実行力で推進していけるのがプロデューサーの力だと思っています。

また、みんなの馬プロジェクト以外にも、地元の方々と会話をしていく中で、珠洲市や能登半島の皆さんに対して、私たちがコンテンツプロデュース企業として何ができるのか模索しています。

一つは、かけがえのない「記憶」や「記録」を残していくことだと考え、「能登アーカイブプロジェクト」を進めています。1ヶ月に1回、メンバーが現地に行って現状を撮影したり、過去の写真を集めたり、地元の方々が自分自身や街の現在と未来について対話する記録をムービーで撮影したりして、記録に残していくプロジェクトです。

みなさんの思いを捉えながら、前を向いて一歩踏み出すきっかけになるような、また将来的に災害研究や教育現場でも活用していただけるような、有意義なアーカイブを目指しています。

今後も現地のみなさんと歩みをともにしていきながら、私たちにできることを考え、アクションしていきたいと思っています。

みんなの馬 代表取締役CEO 足袋抜様 コメント

事業が状況に応じて変化していく中で、ステートメントムービーを作る前のミーティングから、TYOのみなさんは事業を長期的な視点で捉えて、一緒に考えて、いろんなアイデアを提案してくれています。映像制作だけでない広がりや深さが出てきているので、これからも長期的な信頼関係のもと、お付き合いできたらと思っています。

一方、震災からの復興に向けて、映像の力はすごく重要だと感じています。TYOさんというプロが関わってくれることで、みんなの馬の事業の意義もポジティブに日本から世界に伝えることができると考えています。

みんなの馬 取締役COO 角居様 コメント

地震で崩れてしまったところから立ち直って、みんなで一緒に新しい活動を進めていきたいです。引退競走馬は世界的な課題になっている中、乗馬やホースセラピー、教育などの活動を通して馬たちが生き生きと活躍していけることを、日本から世界に発信していきたいと思います。


岸本高由プロフィールページ


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